【関係あるの?】顎が小さい人の睡眠時無呼吸症候群について
目次
睡眠時無呼吸症候群は肥満の方が発症しやすいイメージがありますが、実は骨格的な要因も関係しています。
骨格の中でも顎が小さいと、睡眠時無呼吸症候群を発症しやすいといわれています。しかし、なぜ顎が小さいことと睡眠時無呼吸症候群が関係しているのか、分からない方も多いのではないでしょうか。
今回は、顎が小さいと本当に睡眠時無呼吸症候群のリスクは高まるのか、どのような対処をすればいいのかについて解説していきます。
顎が小さいこと以外の原因も紹介するので、肥満など複合的な要因が重なっている方も、ぜひこの記事を参考に症状を改善してください。
顎が小さいと睡眠時無呼吸症候群(SAS)の原因になる
睡眠時無呼吸症候群は、さまざまな原因により発症することが知られています。主要な原因の一つが、顎の小ささです。
睡眠時無呼吸症候群は、気道が狭くなり空気の通りが悪くなることにより、いびきや無呼吸が発生します。顎が小さいと喉周辺のスペースが狭くなり、睡眠時無呼吸症候群になるリスクが高まります。特にアジア人は、欧米人に比べると下顎が後退しているため、以前から気道への影響が指摘されています。
日本人は、2万年ほど前に南から渡来してきた「縄文人」と、約2800年前に大陸から渡来してきた「弥生人」が祖先です。縄文人は立体的で濃い顔が特徴、弥生人は平坦で滑らかな顔、そして顎が小さいことが特徴です。
現在の日本人は、縄文人と弥生人の混血であり、その割合は縄文人30%、弥生人70%とされています。そのため、日本人の多くは顎が小さい傾向にあるといえます。
参考
福岡歯科大学医科歯科総合病院 あごの形態が大いに関与する睡眠時無呼吸症候群
SASnet 歯並びと睡眠の深~い関係
Dバンク 2023年7月23日 顔から探る日本人の起源
顎が小さいこと以外の睡眠時無呼吸症候群(SAS)の原因
睡眠時無呼吸症候群は、顎が小さいこと以外にもさまざまな原因により発症します。また、複合的な要因により重症化している患者も多くみられます。
扁桃が大きい
扁桃とは喉の周りのリンパ組織であり、ウイルスなどの体内への侵入を防ぐ役割があります。
この扁桃が生まれつき大きい方は気道を塞ぎやすく、睡眠時無呼吸症候群の原因になります。また、生まれつきではなく、3歳から10歳ころに発症しやすい扁桃肥大という病気により、いびきや無呼吸を発症するケースもあります。
その他に、アデノイド肥大も原因の一つです。アデノイド肥大とは、鼻の奥が肥大する病気で4歳から10歳ころに発症します。
睡眠時無呼吸症候群は大人がかかる病気と認識されていますが、子どもも発症する可能性があります。大人だけの病気と考えずに、子どもにいびきや無呼吸の症状がみられた場合は、病院で検査を受けるといいでしょう。
肥満による脂肪
肥満は身体だけでなく、喉の周りにも脂肪がつき気道が狭くなるため、睡眠時無呼吸症候群のリスクを増大させます。また、肥満により睡眠時無呼吸症候群を発症した患者は、糖尿病などの生活習慣病を併発しているケースが多くみられます。
肥満の中でも特に内臓脂肪型肥満は、睡眠時無呼吸症候群のリスクが高まります。内臓脂肪型肥満とは、腸の周りなど内臓に脂肪が蓄積している状態です。手足は細くてもお腹が出ることから「リンゴ型肥満」とも呼ばれ、男性に多い肥満です。内臓脂肪型肥満が睡眠時無呼吸症候群のリスクを高める理由は、以下の通りです。
・内蔵型肥満は腹部だけでなく喉周辺にも脂肪を蓄積している
・腹部肥満により肺の容量が減少し気道の力を低下させ、気道が潰れて狭くなりやすい
肥満は一般的に脂肪で身体が大きくなるイメージですが、内蔵脂肪型肥満はお腹だけが大きくなります。手足が痩せているから睡眠時無呼吸症候群ではない、と判断することは危険です。内臓脂肪型肥満の傾向があり、いびきや無呼吸の症状が出ているのであれば、病院で診察を受けるといいでしょう。
参考
睡眠時無呼吸症候群ガイドライン2020 2020年7月30日 OSAと内臓脂肪P54
飲酒や薬
飲酒と睡眠時無呼吸症候群の関係は昔から研究されていて、飲酒する人は飲酒しない人と比べて睡眠時無呼吸症候群のリスクが25%高まると示されています。また、日常的な飲酒の習慣がなくても、就寝前に飲酒をすると症状が悪化します。
飲酒により睡眠時無呼吸症候群のリスクが増加するのは、アルコールの作用が原因です。アルコールは筋肉を弛緩させるため、喉の筋肉も緩んでしまいます。その結果、気道が緩み、さらに舌が背中側に落ち込み気道を塞いでしまうのです。
寝付きを良くするために就寝前に飲酒をする方がいますが、トイレに行く回数が増え、喉を渇きやすくなるため、睡眠の質にも影響します。
飲酒だけでなく、睡眠薬も睡眠時無呼吸症候群の発症原因となります。アルコールと同じく、睡眠薬にも筋肉を弛緩させる作用があるためです。不眠症の患者は、睡眠時無呼吸症候群を併発している確率が39~55%とされています。不眠症の方でいびきや無呼吸の症状がある場合は、医師に相談して睡眠時無呼吸症候群に悪影響を与えない薬を処方してもらいましょう。
参考
かたおか歯科医院 いびき・睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群ガイドライン2020 2020年7月30日 P9・P84
顎が小さいことによる睡眠時無呼吸症候群(SAS)の症状
睡眠時無呼吸症候群は、いびきや無呼吸が主な症状として知られていますが、その他にもさまざまな症状があります。
いびきや無呼吸
気道が狭まったり塞がったりすることにより、空気の通りが悪化していびきや無呼吸状態となります。
無呼吸状態から呼吸が回復する際は、身体は眠っていても脳は覚醒した状態になります。脳が覚醒すると副交感神経に代わり交感神経が優位となり、起きている状態と同じく血圧が上昇します。この状態が繰り返されると、慢性的な高血圧となるので注意が必要です。
また、無呼吸状態は呼吸で酸素を取り込めないため、血液中の酸素濃度が低下します。酸素濃度が低下すると心臓が血液を普段よりも活発に送り出し、全身に酸素を供給しようとします。その結果、心臓や血管への負担が大きくなり、動脈硬化や心筋梗塞など心疾患に繋がるのです。
このように、睡眠時無呼吸症候群はさまざまな合併症を引き起こすため、放置すると命に関わることがあります。
中途覚醒
いびきの音や無呼吸の息苦しさで目が覚めることを、中途覚醒と呼びます。
中途覚醒により、夜中に年度も目が覚めるので、睡眠の質は著しく低下します。そのストレスにより、精神面が不安定になってしまい、うつ病を併発するケースも多いです。
また、中途覚醒した後に、「早く眠らないと」とプレッシャーを感じて、入眠障害になることもあります。中途覚醒や入眠障害は不眠症の一種であり、複合的に不眠症を発症している事例もあるため注意しましょう。
中途覚醒については下記記事でも詳しく解説しています。
日中の眠気や疲労感
中途覚醒などの不眠症により睡眠の質が低下すると、眠っても疲れが取れずに、日中に眠気や疲労感を感じます。目覚めた瞬間から疲れを感じる患者もいるほどです。
日中の眠気や疲労感は仕事のパフォーマンスを低下させ、ミスが増えることにより上司からの評価が悪化してしまいます。しかし、睡眠時無呼吸症候群による眠気や疲労感は本人の怠慢ではないため、周囲に病気を理解してもらうことが大切です。
また、眠気や疲労感は、集中力が低下して交通事故のリスクが増大します。ある研究によると、致死的な衝突事故の15~33%は、居眠りが原因だと報告されています。国土交通省が作成した「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル~SAS対策の必要性と活用~」によると、次のような状態で交通事故が発生しやすいとされています。
・同乗者がいなく一人で運転している状態
・高速道路や直線道路など単調な道を運転している状態
・渋滞で低速運転をしている状態
睡眠時無呼吸症候群の患者は、そうでない人と比べて交通事故のリスクが2.4倍になると示されています。タクシー運転手やトラックドライバーなどの職業運転手でなくても、日常的に車を運転する方は居眠り運転への注意が必要です。
参考
睡眠時無呼吸症候群ガイドライン2020 2020年7月30日 P100
無呼吸なおそう.com 睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?[主な症状]
顎が小さいことが原因の睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療方法
睡眠時無呼吸症候群を発症した原因により、治療法は異なります。ここでは、顎が小さいことが原因となっている場合の治療法を解説します。
スリープスプリント療法
スリープスプリント療法とは、マウスピースで下顎を前方に出した状態に矯正して、喉のスペースを確保する治療法です。スリープスプリントのメリットは、マウスピースを旅行先などに持ち歩けば、どこでも治療できることです。
睡眠時無呼吸症候群は治療を行ったからといって、すぐに改善するものではありません。長期間の治療が面倒になり、途中で投げ出してしまう患者も多くいます。そのため、気軽に装着できるマウスピースは、継続しやすい治療法といえるでしょう。
ただし、スリープスプリント療法は軽症から中等症の患者に実施される治療法で、重症になると効果は少ないとされています。
参考
デンタルクリニック夏帆 いびき(睡眠時無呼吸症候群 スリープスプリント
CPAP(シーパップ)療法
CPAP療法は、鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道を開いた状態に保つ治療法です。主に中等症から重症の患者に効果があるとされ、睡眠時無呼吸症候群の治療の柱となっています。
ただし、CPAP療法はあくまで対症療法なので、根本的な原因である顎の小ささや肥満などの改善と並行して治療していくことが大切です。
CPAP療法を実施した患者は、CPAP療法を受けなかった患者よりも長生きしているというデータがあり、日中の眠気や疲労感も改善されています。
外科的手術
睡眠時無呼吸症候群の外科的手術は、口蓋垂や扁桃などを切除して物理的に気道を拡大させる手術です。外科的手術は、睡眠時無呼吸症候群の根本原因を改善できますが、軟口蓋の閉鎖不全や味覚異常などの副症状が報告されています。
外科的手術は、子どもの扁桃腺肥大やアデノイド肥大の治療に最も効果を発揮します。しかし、成人した患者の場合は閉塞部位の特定が難しく、肥満などの原因も重なっているケースが多いため、手術をするかの判断は慎重に行われるべきです。
パルスサーミア(いびきレーザー治療)
いびきレーザー治療「パルスサーミア」とは、レーザーで口蓋垂を引き締めて気道の閉塞を防ぐ治療法です。外科的手術や従来のレーザー治療のように切開しないため、日常生活に戻るまでのダウンタイムが少なく、入院の必要もありません。
仕事を休めない方や治療を受けていることを周囲に知られたくない方でも、気軽に治療を受けられます。さらに、治療時間は15分ほどなので、CPAP療法のように長時間マスクを装着する必要もありません。
統計上では初回の治療だけで50%以上の患者が効果を感じていますが、基本的には複数回の治療を実施します。個人差はありますが、3~6回の治療でいびきが減少するとのデータがあります。
⇒オリジナルいびきレーザー治療「パルスサーミア」の詳細はこちら
参考
村田歯科 いびき アゴが小さい 下顎後退 睡眠時無呼吸症候群
かたおか歯科医院 いびき・睡眠時無呼吸症候群
まとめ
顎が小さい人は喉周辺のスペースが狭いため、気道が塞がりやすく睡眠時無呼吸症候群のリスクが高まります。日本人を含むアジア人は、欧米人と比べると下顎が小さい方が多く、顎の大きさが原因で睡眠時無呼吸症候群を発症するリスクが高いとされています。
睡眠時無呼吸症候群は顎の小ささ以外にも、肥満や扁桃肥大なども原因となることがあります。それらが複合的に重なり合って発症するケースもあるため、自分で判断しないで病院で検査を受けることが大切です。
睡眠時無呼吸症候群はCPAP療法や外科的手術・パルスサーミアなどの治療法があり、症状に合わせて選択されます。どの治療法にもメリットデメリットがありますが、最新の治療法であるパルスサーミアはデメリットが少なく、軽症から重症の患者まで幅広く治療を受けられます。
睡眠時無呼吸症候群は重症化すると命にも関わる病気なので、医者と相談しながら自分に最適な治療法を見つけてください。
【よくある質問】
Q.顎が小さいとどうなる?
A.顎が小さいと喉のスペースが狭まり、睡眠時無呼吸症候群の原因となります。マウスピースを装着して下顎を前に出した状態に固定する治療法や、外科的手術により顎を10mmほど前に出す治療法があります。
Q.顎が小さいこと以外の睡眠時無呼吸症候群の原因は?
A.肥満による気道周辺への脂肪の付着や扁桃肥大が挙げられます。どちらも気道を塞ぐ要因となり、いびきや無呼吸などの症状が出ます。また、飲酒や睡眠薬を服用すると喉の筋肉が弛緩するため、気道が狭くなり睡眠時無呼吸症候群が悪化するケースがあります。