睡眠時無呼吸症候群の治療法として知られるマウスピースとは?かかる費用や注意点を解説
目次
睡眠時無呼吸症候群を治療する方法のひとつに、マウスピースを使う治療法があります。症状が軽度の患者さんに用いるケースが多いのですが、治療にかかる費用や注意点を知っておくことで、治療の選択肢が増やせるようになります。
今回の記事で、マウスピースについて理解を深めましょう。
マウスピースとはどのような器具なのか?費用はどのくらいかかる?
睡眠時無呼吸症候群の治療に、マウスピースを用いるケースがあります。
マウスピースとは、一体どのような器具なのでしょうか。また気になる費用はどのくらいかかるのでしょうか。
気道を広げるための器具
睡眠時無呼吸症候群の治療に用いるマウスピースは、スリープスプリントとも呼ばれる器具です。睡眠中に、上顎よりも下顎が前方へ数mm移動した状態に固定するために使われます。これにより舌が喉の奥に落ちづらくなるので、舌の位置が上がって気道が広がり、いびきおよび無呼吸の発生を防ぐのです。マウスピースの装着中は口呼吸がしづらいので、鼻呼吸の習慣付けにも役立ちます。
マウスピースと言うと、スポーツ選手が装着しているものや、歯ぎしり改善などのための市販品を想像される方もおられるでしょう。しかし、睡眠時無呼吸症候群の治療を目的としたマウスピースはそれらとは異なり、専門医(主に歯科医)が型取りを行って、1人ひとりの骨格にあったマウスピースを作成します。
軽度のいびきを治療するために用いられることが一般的
マウスピースは、いびきおよび軽度から中程度の睡眠時無呼吸症候群の症状改善を目的として用いられることが一般的です。重度の場合には、効果が期待できない場合もあります。
また、CPAP治療(鼻から空気を送り込み、気道を広げる呼吸療法)が行えない患者様にも、マウスピースを用いることがあります。
健康保険適用のため自己負担は数万円
2004年から、マウスピースを用いた治療に対して健康保険が適用されるようになりました。病院によって若干の差はありますが、睡眠時無呼吸症候群用マウスピースの作成にかかる自己負担金はおおよそ1万円から2万円程度です。これとは別に、検査費用や診察代などがかかります。
ただし、健康保険が適用されるのは、医師によって睡眠時無呼吸症候群と診断された場合のみです。いびきの症状だけでは保険適用にならず、全額自己負担となります。
自費治療で、睡眠時無呼吸症候群用マウスピースを製作すると、次の金額が目安です。
・下顎のみに装着するタイプ(上下顎一体型)…4万円から6万円ほど
・上顎と下顎の両方に装着するタイプ(上下顎分離型)…20万円ほど
医院によって金額が大きく異なるため、施術内容と併せて必ず事前に確認しましょう。
なお、睡眠時無呼吸症候群用マウスピースの種類については後ほど解説します。
睡眠時無呼吸症候群であっても、度合い・体質・健康状況などにより、マウスピースの使用が適さない場合もあるため、医師と十分相談したうえで検討しましょう。
マウスピース治療のメリットは?
睡眠時無呼吸症候群の治療にマウスピースが用いられるのは、多くのメリットがあるためです。どのようなメリットがあるのか、ひとつずつ詳しく解説します。
身体にかかる負担が少ない
マウスピースは就寝時に口腔内へ装着するだけで使用でき、早い効果が期待できるうえ、身体にかかる負担が少ないのが特長です。マウスピースを装着すると、下顎が持ち上がり、空気が気道に入りやすくなります。
さらに、CPAP治療に比べ、不快感を覚える患者様が少ないこともあげられます。
定期的な通院が不要
マウスピースは、一度作ると定期的な通院は必要ありません。丈夫なプラスチックでできているため、耐久年数はおよそ5年間とされており、必要に応じた調整やメンテナンスを行うだけで長期間使用できます。
小型のため持ち運びしやすい
マウスピースは、機械を装着する必要がなく、小型のため外出時の持ち運びが大変便利です。旅行や出張などでも、荷物が増えるのを気にせずに使用できます。
睡眠時無呼吸症候群用マウスピースの種類
先ほど軽く触れましたが、睡眠時無呼吸症候群の治療に使われるマウスピースには、以下の2種類があります。
・上下顎一体型
・上下顎分離型
作成にあたり、保険が適用されるのは上下顎一体型のマウスピースのみです。上下顎分離型は自由診療での作成になるため、睡眠時無呼吸症候群と診断されていても保険適用にはなりません。
保険適用の可否も含め、上下顎一体型のマウスピースと上下顎分離型のマウスピースには、異なるメリット・デメリットがあります。
今度は、上下顎一体型のマウスピースと上下顎分離型のマウスピース、それぞれのメリット・デメリットを見ていきましょう。
上下顎一体型のメリット・デメリット
下顎のみに装着するタイプの上下顎一体型マウスピースは、保険が適用されるので、1万円から2万円程度で作ることができ、費用面の負担が比較的小さい点がメリットです。このため、日本では多くの睡眠時無呼吸症候群の患者さんが、上下顎一体型のマウスピースを治療に使用する傾向があります。
また、上下顎分離型に比べて小さく目立ちにくいので、就寝中とはいえマウスピースをつけた時の見た目の変化が気になるという方には、上下顎一体型がおすすめです。
一方で上下顎一体型のマウスピースは、上下顎分離型のマウスピースに比べると、使い勝手に難があります。具体的には、圧迫感や閉塞感を感じやすい、嚥下や咳がしにくい、歯並びが悪い場合は痛みや違和感が出やすいなどがデメリットです。
上下顎分離型のメリット・デメリット
上顎と下顎の両方に装着するタイプの上下顎分離型マウスピースは、使用する患者さんに合わせ、下顎の位置を微調整できるのがメリットです。このため、時間が経って骨格に変化が生じても、再度調整し直すことができます。
また、劣化を起こしにくい素材で作られていることから、壊れにくいのも上下顎分離型マウスピースのメリットです。
一方で、前述したように上下顎分離型のマウスピースを使った睡眠時無呼吸症候群の治療は自由診療であり、保険が適用されません。費用面の負担は、上下顎一体型のマウスピースよりも大きくなります。加えて、上下顎一体型のマウスピースよりもサイズが大きく目立つことから、恋人や家族と一緒に暮らしている方は、装着に抵抗を覚えるかもしれません。
上下顎一体型・上下顎分離型マウスピースのメリット・デメリットまとめ
メリット | デメリット | |
---|---|---|
上下顎一体型 | ・保険適用される
(費用負担が少ない) | ・圧迫感や閉塞感を感じやすい
・嚥下や咳がしにくい ・歯並びが悪い場合は痛みや違和感が出やすい |
上下顎分離型 | ・下顎の位置を微調整でき、使用感に優れる
・劣化を起こしにくく、壊れにくい | ・保険適用されない
(費用負担が大きい) ・サイズが大きく目立つ |
参考:
いびき外来・睡眠時無呼吸症候群の治療- フォレストデンタルクリニック西東京院
マウスピース治療ができないケースとは
メリットが大きいマウスピース治療ですが、次に該当する患者様は使用することができませんので、医師と相談したうえで別の治療法を検討しましょう。
中学生以下
中学生以下のお子さんは、骨や筋肉が発育途中の段階であり、マウスピースの使用は適していません。このため、原則として高校生以上が対象となっています。
自分の歯が20本未満しかない
マウスピースは、口腔内で固定して使用するため、確実に固定できないと使用できません。
自分の歯が20本未満しかない場合(総入れ歯や重度の歯周病などを含む)は、マウスピースが固定できなくなります。また、20本以上あっても、虫歯などにより歯がぐらついていると、マウスピースは使えません。
顎関節や鼻に疾患がある
顎関節に疾患があると、マウスピースを装着した際に違和感が生じたり痛みを感じたりすることがあるので、睡眠中に装着し続けることが困難な場合があります。
また、鼻に疾患があり、鼻呼吸ができない場合も、マウスピースの使用は適していません。先に耳鼻科を受診し、鼻の疾患の治療が必要です。
重度の睡眠時無呼吸症候群
先述したように、マウスピースの効果が期待できる睡眠時無呼吸症候群は、軽度から中程度の症状です。重度の睡眠時無呼吸症候群であると、マウスピースの効果が十分発揮されない可能性があります。
心身症を患っている
心身症とは、体にストレスがかかると一定の身体症状が見られる病態を言います。
心身症を患っている方は、マウスピースを装着すると不安を感じる場合があります。医師と十分話し合ったうえで、装着するかどうか検討することが大切です。
マウスピース装着までの一般的な流れは?
マウスピースによる治療効果を最大限にするには、自分に合ったマウスピースを作る必要があります。マウスピースを装着するまでに、どのような流れで進めたら良いのか、一般的な流れを紹介します。
治療用のマウスピースが保険適用となるのは「睡眠時無呼吸症候群」の診断書を持参した場合です。保険適用で作成を希望される方は、あらかじめ検査の可能な別の病院にかかる必要がありますのでご注意ください。
1.問診・検査・歯石除去など
最初に、医師による問診を受け、口腔内検査やレントゲン検査、歯石除去などを行います。
睡眠時無呼吸症候群の治療を目的としたマウスピースは、歯に大きな圧力がかかるため、歯の健康状態を細部まで把握することが必要です。また、歯石が残っているとマウスピースが合わないケースがあるため、型取り前に除去します。
2.型取り
検査の結果問題がなければ、歯の型取りに進みます。型取りをし、上下の歯の状態や噛み合わせなどを把握したうえで、マウスピースの製作に入ります。
3.完成したマウスピースの装着
マウスピースができ上がったら、装着した時に安定しているか・痛みや違和感がないかなどを確認します。実際にマウスピースを装着し、仮固定をして1週間ほど使用します。
4.調整
仮固定の状態で問題がなければ、最終固定を行います。また、違和感や改善点などがあれば、固定位置を調整し直し、最適な状態に仕上げます。
5.メンテナンス
使用しているうちに、マウスピースの汚れやずれなどが起こる場合もあるため、定期的にメンテナンスを受けましょう。マウスピースが汚れたまま使用していると、歯周炎を発症するリスクがあります。
睡眠時無呼吸症候群用マウスピースの洗浄方法
マウスピースを使って睡眠時無呼吸症候群を治療する場合、マウスピースのお手入れが必要になります。
では、どのようにお手入れをすれば良いのでしょうか?以下に洗浄方法をまとめましたので、参考にしてください。
①歯ブラシで軽く磨く
起床後、マウスピースを外したら、まず歯ブラシで軽く磨いてください。この時、専用の洗浄液などは必要なく、水道水で問題ありません。ただし、水道水の温度が高いとマウスピースが変形してしまうため、ご注意ください。
また、強く磨いたり、研磨剤入りの歯磨き粉を使ったりすると、マウスピースが壊れる、傷つくなどの原因になります。どうしても歯磨き粉を使いたい時は、研磨剤の入っていないものを使用してください。
マウスピースは冷たい水道水で優しく磨く。これを忘れないようにしましょう。
②入れ歯洗浄剤を使う
歯ブラシで磨いただけでは、マウスピースの汚れを完全に落とすことは難しいです。そこで、入れ歯洗浄剤を使用して、汚れを徹底除去していきます。入れ歯洗浄剤を使うと、汚れを落とせるだけではなく、ニオイの除去もできますし、除菌も可能です。
入れ歯洗浄剤は、ドラッグストアで販売されている市販の商品で問題ありません。つけ置きタイプの洗浄剤ならば、入れて放置するだけで洗浄ができて手軽です。
洗浄剤を使ったお手入れを毎日することが難しい場合は、週に1回のペースで行ってください。
睡眠時無呼吸症候群用マウスピースの保管方法
睡眠時無呼吸症候群用マウスピースの保管方法についてもお話ししておきます。
昼間に使用しない場合、マウスピースはお手入れをした後、乾燥しない場所かつ高温でない場所に保管してください。特にマウスピースは素材の性質上、とても乾燥に弱いので、乾燥した場所に保管すると変形する恐れがあります。
マウスピースを作成した時にもらう専用のケースに水を溜め、そこにマウスピースを入れておくのが良いでしょう。
旅行などで持ち歩く時は、水を入れていると溢れてしまうため、水の代わりに濡らしたガーゼにマウスピースを包んでください。
マウスピース以外の睡眠時無呼吸症候群の治療方法
睡眠時無呼吸症候群の治療方法はマウスピースを使用する方法だけではありません。他に、もっとも一般的なCPAP治療、そして外科手術、レーザー治療などがあります。
それぞれどのような治療方法か、簡単に見てみましょう。
CPAP療法
CPAP療法は、睡眠中、鼻に専用のマスクとホースを装着することで、鼻から空気を送り続け、気道が塞がることを防ぐ治療法です。
軽度の睡眠時無呼吸症候群はもちろん、重度の睡眠時無呼吸症候群も含めて、ほとんどの睡眠時無呼吸症候群に対して効果があります。
また、睡眠時無呼吸症候群が原因で血圧が上昇している場合は、血圧を下げることも可能です。
外科手術
主に骨格の問題で気道が塞がっている場合、外科手術によって睡眠時無呼吸症候群の治療をすることがあります。
例えば扁桃腺の肥大が原因であれば、扁桃腺を切除することで気道が塞がる要因をなくします。
また、アレルギー性鼻炎のように、鼻詰まりが原因で睡眠時無呼吸症候群を患っている場合も、外科手術による治療が可能です。
レーザー治療
気道を塞いでいる箇所をレーザーで切除する治療方法です。切除するケースと切除しないケース(非切除)があり、いずれも同じように睡眠時無呼吸症候群の治療として効果があります。
ただし、最近では身体への負担が少ない非切除のレーザー治療が人気です。ダウンタイムがなく、日常生活への大きな支障も出ません。
CPAP療法、外科手術、レーザー治療による治療の他には、軽度の睡眠時無呼吸症候群であれば、生活習慣の改善によって治る見込みがあります。
睡眠時無呼吸症候群の治療法について、詳しくは下記コラムをご覧ください。
確実に睡眠時無呼吸症候群を改善したいなら「パルスサーミア」もおすすめ
これまで紹介したように、マウスピースは軽度から中程度の睡眠時無呼吸症候群の改善が期待できます。ただ、根本から治したいと考えておられる方は、いびきメディカルクリニックのパルスサーミアを用いた治療を行ってみてはいかがでしょうか。
いびきメディカルクリニックは、いびき治療に特化した専門病院であり、最新のレーザー治療「パルスサーミア」を行っております。これまでのレーザー治療とは異なり、レーザーで引き締めるため痛くないのが大きな特徴であり、1回の治療時間がおよそ15分であることから入院の必要もございません。多少の違和感は生じるものの、日常生活も支障なく送ることができます。
パルスサーミアについてさらに詳しく知りたい方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
まとめ
マウスピースは対処療法ではあるものの、いびきに悩む患者様が幅広く利用しておられる治療法です。ご自身のいびきや睡眠時無呼吸症候群の状態に合わせて、どの治療法が最適なのか医師と相談のうえ見極め、治療法を検討するようにしましょう。
根本から改善したいとお考えの患者様は、ぜひ一度いびきメディカルクリニックまでご相談ください。
【よくある質問】
Q.睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療とは、どのようなものですか?
A.マウスピース治療は、睡眠中にマウスピースを装着し、睡眠時無呼吸症候群の症状改善を図る治療方法です。舌が喉の奥に落ちづらくなり、気道が広がるので、いびきや無呼吸を予防できます。
より一般的なCPAP治療に比べて身体への負担や不快感が少ない、定期的な通院が不要、持ち運びしやすいなどのメリットがあります。
Q.マウスピース治療は、睡眠時無呼吸症候群の患者ならば誰でも受けられますか?
A.睡眠時無呼吸症候群の患者さんであっても、中学生以下のお子さん、自分の歯が20本未満しかない方、顎関節や鼻に疾患がある方、心身症を患っている方などは、マウスピース治療ができません。
また、重度の睡眠時無呼吸症候群の場合も、効果が十分発揮されない可能性があるため、マウスピース治療は向いていません。