【妊娠中の気がかり】妊婦といびきの関係性について
目次
「妊娠してからいびきをかくようになった…」「眠っても疲れが取れない…」などの悩みはありませんか?
妊婦さんになると、妊娠前と比べて睡眠に様々な変化が現れます。いびきをかくようになるのも変化のうちの1つです。
単なるいびきと放置してしまう方が多いのですが、実は深刻な病気が隠れている可能性があります。妊娠後のいびきに気づいたら、適切に対処をしましょう。
今回は妊婦さんがいびきをかきやすい理由や、いびきと関連が深い病気「睡眠時無呼吸症候群」の仕組みと症状、妊婦さんに与える影響、治療方法などを解説します。ご自身とお腹の赤ちゃんの健康を守るため、ぜひご一読ください。
妊娠後に現れる睡眠の変化
冒頭でお話しした通り、通常は妊娠すると睡眠に様々な変化が現れるのですが、この“変化”の内容は時期によって異なります。
具体的には、妊娠初期と後期で異なり、それぞれ以下のような変化が現れるのでチェックしてみてください。
妊娠初期
妊娠初期は日中の眠気が強く、過眠気味になります。「プロゲステロン(黄体ホルモン)」と呼ばれる血中のホルモンが、妊娠前よりも増加するためです。一方で夜になると、寝つきが悪くなる傾向があります。
また、この頃の妊婦さんは不安を抱えていたり、つわりがあったりと心身の負担がとても大きいことから、睡眠時間に関わらず強い眠気を感じやすくなります。
妊娠後期
おなかが大きくなるにつれて、腰や背中の痛み、頻尿など様々な体の変化が起こるため、寝つきが悪くなります。また、「エストロゲン(女性ホルモン)」と呼ばれるホルモンの作用により、夜中に目が覚めてしまうことも多いです。
以上のように妊婦さんは、様々な理由によって妊娠初期は過眠に、妊娠後期は不眠に陥りやすくなっています。
参考:
ママと子供の睡眠
【医師監修】睡眠パターンが変化!? 妊娠中の睡眠について
いびきに悩む妊婦さんは多い
前項で、妊娠をすると過眠や不眠といった睡眠の変化に悩まされることをお話ししました。こうした妊娠中に起こる睡眠の変化の1つとして、多くの妊婦さんが悩む症状が「いびき」です。
いびきが増える原因の多くは、体重の増加にあります。のどや舌に脂肪が蓄積した結果、気道が狭くなり吐き出した空気が気道を通る時に振動するため、いびきの症状が現れます。
このいびきですが、一時的なものであればそれほど大きな問題はありません。しかし、いびきが習慣化している場合は、「睡眠時無呼吸症候群」と呼ばれる病気の可能性が考えられます。
睡眠時無呼吸症候群は、妊婦さんの健康はもちろんですが赤ちゃんの健康にも関わる病気であるため、早めに改善する必要があるので注意してください。
参考:
2020/6/16,No.75妊娠中の睡眠時無呼吸症候群と糖尿病
三島 渉,2023/3/30,いびきをかく妊婦さんは要注意?妊娠と睡眠時無呼吸症候群との関係,
睡眠時無呼吸症候群の仕組みと症状
ここからは、「睡眠時無呼吸症候群」と呼ばれる病気について仕組みや症状を解説していきます。
睡眠時無呼吸症候群は、就寝中に何らかの原因によって空気の通り道である気道が狭まり、呼吸が止まったり呼吸量が減ったりしてしまう病気です。就寝中に呼吸が止まることを「無呼吸」、呼吸量が減ることを「低呼吸」と言い、この無呼吸と低呼吸が1時間に5回以上起こると睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
睡眠時無呼吸症候群の種類
睡眠時無呼吸症候群には、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)」と「中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)」の2種類があります。このうち、妊婦さんに多いのは閉塞性睡眠時無呼吸症候群です。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、先ほど解説したように何らかの原因によって、就寝中に気道が狭まることで起こります。肥満や骨格の問題、就寝中の姿勢などが原因となっており、その中でも肥満が原因で診断される方が多いです。
もう一方の中枢性睡眠時無呼吸症候群は、呼吸中枢に問題が生じ、呼吸をするための指令が脳から届かないことで起こります。こちらに該当する患者さんは数が少なく、未だにあまり研究が進んでいません。
参考:
2020/6/16,No.75妊娠中の睡眠時無呼吸症候群と糖尿病
三島 渉,2023/3/30,いびきをかく妊婦さんは要注意?妊娠と睡眠時無呼吸症候群との関係
妊婦さんが睡眠時無呼吸症候群になりやすい理由
では、なぜ妊婦さんは睡眠時無呼吸症候群になりやすいのでしょうか?もっとも多い理由は、妊娠することで体重が増えるためです。
先ほど、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に多い原因として肥満を挙げました。妊婦さんも同様に、妊娠すると体に脂肪がつきます。この脂肪が気道を塞いでしまうため、妊娠前よりも症状が起こりやすいのです。
参考:
三島 渉,2023/3/30,いびきをかく妊婦さんは要注意?妊娠と睡眠時無呼吸症候群との関係
睡眠時無呼吸症候群による妊婦への影響とは?
ここからは、睡眠時無呼吸症候群による妊婦さんへの影響について解説します。
睡眠時無呼吸症候群は単なるいびきと違い、健康を損なったり、命に関わったりする病気です。当然、妊婦さんに対しても悪影響があります。場合によってはお腹の中の赤ちゃんまで危険に晒してしまうため、早めの対処が必要です。
では、どのような悪影響があるのかを見ていきましょう。
妊娠高血圧症候群
妊娠20週から分娩12週までの間に高血圧になると、「妊娠高血圧症候群」と診断されます。
睡眠時無呼吸症候群は、高血圧と関連が深い病気です。就寝中、無呼吸や低呼吸によって脳が覚醒すると交感神経が優位になり、血圧が上昇します。これにより高血圧のリスクが高まります。
症状が重症化すると、赤ちゃんの発達不全や機能不全などに繋がる恐れがあるため、医師の指示に従い治療をしなければなりません。
高血圧と睡眠時無呼吸症候群の関係性について、詳しくは下記のコラムをご覧ください。
妊娠糖尿病
妊娠してから血糖値が上昇し、糖代謝に異常が見られると、「妊娠糖尿病」と診断されます。
高血圧と同様、糖尿病もまた睡眠時無呼吸症候群と関連が深い病気です。就寝中の無呼吸・低呼吸によって酸素が上手く体内に取り込まれないと、血糖値を下げるホルモン「インスリン」の働きが低下し、糖尿病のリスクが高まります。
糖尿病は流産や早産、赤ちゃんの肥大化などの悪影響にも繋がる恐れがあるため、こちらも治療が必要です。
糖尿病と睡眠時無呼吸症候群の関係性について、詳しくは下記のコラムをご覧ください。
事故のリスク
睡眠時無呼吸症候群によって睡眠の質が低下すると、日中に強い眠気を感じるようになります。これが集中力や判断力の低下を引き起こし、自動車事故のような命に関わる事故のリスクを高めます。
特に妊婦さんは、前述したようにホルモンの影響で日中の眠気を感じやすいため、このリスクが通常の人よりも上昇すると言えるでしょう。
流産のリスク
睡眠時無呼吸症候群による無呼吸や低呼吸は、患者さんを酸素不足に陥らせます。妊婦さんの場合、酸素不足の影響はお腹の中の赤ちゃんにまで及び、例えば胎児や胎盤の酸素不足が、流産や早産の危険性を高めます。
胎児への悪影響
胎児への悪影響としては、胎盤機能不全や胎児発育不全による発達障害(広汎性脳障害)があげられます。広汎性脳障害はPDDとも呼ばれ、コミュニケーションと社会性において障害が見られます。また、特定の同じような行動を繰り返すことも特徴です。
参考:
三島 渉,2023/3/30,いびきをかく妊婦さんは要注意?妊娠と睡眠時無呼吸症候群との関係
2019/5/29,vol.26 流産をくり返す!? 妊婦と睡眠時無呼吸について
八倉巻尚子,2006/03/29,妊婦SAS検診の導入を提案、妊娠期でもCPAPで早期治療を
いびき以外に現れる睡眠時無呼吸症候群のサイン
睡眠時無呼吸症候群が妊婦さん自身はもちろん、赤ちゃんにも悪影響を与える病気であることを解説しました。自身と赤ちゃんの健康や命を守るため、症状に気づいたら早めに治療をすることが望ましいです。
しかし、中には自分のいびきが本当に睡眠時無呼吸症候群によるものなのか、分からずに悩んでいる方もいるでしょう。
睡眠時無呼吸症候群のサインはいびきだけではありません。以下のような症状も併せて現れるようであれば、可能性が高いと考え医療機関に相談してください。
無呼吸・低呼吸
就寝中に呼吸が止まる無呼吸や、呼吸量が一定量よりも少なくなる低呼吸は、睡眠時無呼吸症候群の代表的な症状の1つです。ただし、自分では気づきにくいため、同じ空間で眠る旦那さんや家族に確認してもらうようにしましょう。
1人で眠っているという方は、無料のいびき録音アプリなどを活用することで、無呼吸や低呼吸が起こっているかチェックできます。
就寝中の覚醒
睡眠時無呼吸症候群の方には、無呼吸が原因で就寝中に何度も覚醒してしまう(目が覚めてしまう)という症状も現れます。
無呼吸状態の時は交感神経が優位になり、体がリラックスできる状態ではなくなるため、夜中に目が覚めてしまいやすくなるのです。
また、人によっては寝つきにくさを感じることもあります。
日中の眠気
睡眠時無呼吸症候群によって無呼吸や低呼吸が起こると、脳が低酸素状態になり慢性的な眠気や倦怠感を引き起こします。この眠気や倦怠感は昼間にも起こるため、十分な睡眠時間を確保しているにも関わらず、日中に強い眠気が現れる場合は睡眠時無呼吸症候群を疑いましょう。
参考:
三島 渉,2023/3/30,いびきをかく妊婦さんは要注意?妊娠と睡眠時無呼吸症候群との関係
妊婦さんのいびき(睡眠時無呼吸症候群)は改善すべきか?
妊娠中は、お腹の中の赤ちゃんを心配し、些細なことにも敏感になってしまいがちです。睡眠時無呼吸症候群だと診断されても、「治療を受けて大丈夫なの…?」と不安に感じますよね。
また、治療には費用がかかりますから、「ただのいびきを医療機関で治療するのはもったいない」と考える方もいるかもしれません。
しかし、先ほども解説した通り、いびき(睡眠時無呼吸症候群)は妊婦さん自身だけではなく、お腹の中の赤ちゃんにまで悪影響を与えます。睡眠時無呼吸症候群と診断されたら、早めに改善・治療するようにしてください。
軽度の症状であれば、生活習慣の改善のみで解決できる場合があります。いずれにしても、まずは医療機関に相談し、適切な治療方法の指示を受けることが大切です。
妊婦さんが受けられる睡眠時無呼吸症候群の治療方法
では、睡眠時無呼吸症候群はどのように治療すれば良いのでしょうか?
治療方法は多岐にわたりますが、中には妊婦さんが受けられないものも多いです。そこで、ここでは妊婦さんが受けられる睡眠時無呼吸症候群の治療方法を紹介します。治療方法を選択する際の参考にしてください。
ただし、実際の治療方法は医師と相談した上で決定することになります。医師による説明をよく聞いて、ご自身に合った治療方法を選びましょう。
CPAP(シーパップ)治療
睡眠時無呼吸症候群におけるもっとも一般的な治療方法です。専用の装置からマスクとホースを通し、鼻から空気を送ることで、気道が塞がることを防ぎます。
CPAP治療は症状の程度や原因に関わらず、ほとんどの睡眠時無呼吸症候群に有効な上に妊婦さんも受けることができます。
治療に際して、健康保険が適用されるのも大きなポイント。出産や育児を控えている時期は、できる限り出費を抑えたいですよね。
CPAP治療なら保険適用で検査に13,000円、装置を借りるのに月5,000円、プラス毎月の診察料、と比較的少ない費用負担で睡眠時無呼吸症候群の治療ができます。
CPAP治療について、詳しくは下記のコラムをご覧ください。
マウスピース治療
就寝時に装着することで顎の位置を調整し、気道を広げる器具を「マウスピース」と言います。「スリープスプリント」や「オーラルアプライアンス」と呼ばれることもあります。
マウスピース治療は、CPAP治療に比べて不快感が少なく、定期的な通院も不要である点がメリットです。
マウスピースには上下顎一体型と上下顎分離型があり、このうち上下顎一体型のみが健康保険が適用されます。保険適用の場合、マウスピースの作製費用は20,000円程度です。
ただし、顎関節や鼻に疾患がある方や、症状が重度の方、心身症を患っている方などは、マウスピース治療ができません。
マウスピース治療について、詳しくは下記のコラムをご覧ください。
まとめ
今回は妊婦さんがいびきをかきやすい理由や、いびきと関連が深い病気「睡眠時無呼吸症候群」の仕組みと症状、妊婦さんに与える影響、治療方法などを解説しました。
いびき自体はそれほど危険なものではありませんが、睡眠時無呼吸症候群に起因するものである場合、妊婦さん自身やお腹の中の赤ちゃんに悪影響を及ぼす可能性があります。
妊娠してからいびきをかくようになったとお悩みの方は、「もしかしたら睡眠時無呼吸症候群かも?」と疑い、いびき以外のサインがないか、注意してください。そして、睡眠時無呼吸症候群が疑われたら、早めに医療機関を受診して、適切な治療を受けましょう。
【よくある質問】
Q.妊娠中にいびきをかくのはなぜですか?
A.妊娠中のいびきの原因は、体重の増加によるものが多いです。
呼吸によって人が吐き出す息は、気道と呼ばれる細長い管のような部分を通ります。のどや舌に脂肪がつくと、この気道が圧迫されることから、吐き出した空気が気道を通る時に振動し、大きな音を伴う「いびき」となる仕組みです。
Q.妊娠中のいびきは危険ですか?
A.一時的ないびきであれば、危険性はありません。しかし、無呼吸や低呼吸を伴う「睡眠時無呼吸症候群」の場合、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病など、別の病気に繋がる恐れがあります。また、流産や早産のリスク、産まれた赤ちゃんに発達障害が現れるリスクなども高まるため、早めに治療しなければなりません。