【舌が大きくなる?】甲状腺といびきの関係性について
目次
「最近、いびきをかいていると家族に言われた…」
「今までいびきなんてかいたことなかったのに、どうして?」
このように、突然のいびきに悩む人は多いでしょう。いびきの原因は多くの場合、肥満や加齢がきっかけで発症します。ですがまれに、甲状腺の疾患によっていびきをかくことがあるのをご存知ですか?甲状腺と言われてもピンとこないし、どんな機能を持つ臓器なのかもわからないですよね。
この記事では、「そもそも甲状腺って何?」という基本的なところから、甲状腺の疾患がいびきを引き起こすメカニズム、そして治療法について解説していきます。
そもそも甲状腺って何?
まずは、甲状腺とは何をしている臓器なのか、私たちの体にどのような作用をもたらしているのか、解説していきましょう。
甲状腺とは
甲状腺とは、喉ぼとけの下にある蝶が羽を広げたような形をした臓器です。
サイズは、片方の羽が縦4cm、横2cmほどで両側にそれぞれ存在しています。正常な甲状腺は厚みがなくて柔らかく、気管に貼り付いているため、首の辺りを触っても一般的には触れません。男性の方が女性よりもやや低い位置にあります。
参考:
甲状腺の病気について
2021.09.25、甲状腺ホルモンの働き
2021.09.30、甲状腺ホルモンとは
甲状腺ホルモンの働きは車のアクセル
甲状腺の働きは、ズバリ甲状腺ホルモンを分泌することです。
甲状腺ホルモンは、全身のほぼすべての臓器に作用し、エネルギー産生や代謝の促進、循環器系の調節などを行っています。いわば、車のアクセルのような役割です。この甲状腺ホルモンがあるおかげで、私たちの体は代謝を上げて臓器の活動を活発にすることができるのです。そのため、私たち人間が生きていく上で、甲状腺ホルモンは欠かせないホルモンと言えるでしょう。
ちなみに、甲状腺ホルモンには、海藻に多く含まれているヨウ素(ヨードとも言う)を含んでいます。
<甲状腺ホルモンの働きの一例>
・熱産生:ほとんどの臓器で酸素消費量を増加させ、基礎代謝を活発にさせる
・心臓に対する作用:心拍数を上昇させる
・糖代謝に対する作用:消化管からの糖の吸収を促進し、血糖値を上げる
・成長への作用:筋肉や骨、脳の正常な発育と成熟に欠かせない
参考:
甲状腺の病気について
2021.09.25、甲状腺ホルモンの働き
2021.09.30、甲状腺ホルモンとは
甲状腺の疾患がいびきを招く?
このように、甲状腺ホルモンには体全体の新陳代謝を促進する働きがあります。通常甲状腺ホルモンは、多すぎたり少なすぎたりしないように調整されていますが、甲状腺の働きに異常があらわれると、そのバランスが崩れてしまいます。
そして、時には突然のいびきを引き起こし、慢性的な睡眠不足に陥ってしまうことがあるのです。
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンの作用不足により、さまざまな症状が見られる疾患の総称です。異常が見られる部位によって原発性(甲状腺性)、二次性(下垂体性)、三次性(視床下部性)、甲状腺ホルモン不応症に分類されます。
甲状腺ホルモンの減少や作用不足を引き起こす原因は多岐に渡りますが、最も頻度が高いのが慢性甲状腺炎、別名橋本病です。
橋本病は、自己免疫が異常を起こすことによって、リンパ球が自身の甲状腺組織を攻撃・ 破壊し、甲状腺に慢性の炎症が生じる疾患です。中年女性に多く見られ、軽症例や自覚症状を欠く潜在的なものを含めると、成人女性のおよそ10%が発症していると推定されています。
ちなみに「橋本病」という名前は、1912年に日本の橋本策(はかる)博士によって発見されたことに由来します。
参考:
2021.08.15、甲状腺機能低下症
2021.09.30、橋本病 ( 慢性甲状腺炎 ) とは (症状・原因・治療など)
甲状腺機能低下症の症状
先ほど、甲状腺ホルモンはエネルギー産生や代謝の促進を司る、いわば車のアクセルのような働きをしていると説明しました。甲状腺機能低下症はその甲状腺ホルモンが十分に分泌されないため、全身の代謝や体のさまざまな機能の低下が見られます。
<甲状腺機能低下症の主な症状>
・精神機能の低下:眠気、記憶障害、抑うつ、無気力
・代謝の低下:脱毛、発汗低下、皮膚乾燥、寒がり、低体温、筋力低下、月経過多、貧血など
・心機能低下:徐脈(脈が遅くなる)
・消化機能の低下:便秘
・粘液水腫(指で押しても跡を残さないむくみ)
特に粘液水腫は、眼瞼(まぶた)や唇、舌にむくみが生じるため、慢性化するごとに表情が失われ、だんだん無表情になっていきます。また、声帯にもむくみが現れるので、声がかすれて低くなることも特徴的です。
あわせて、甲状腺機能低下症を発症している患者のアキレス腱をハンマーなどでポンと叩くと、正常な人よりも明らかに反応が遅れていることがわかります。これを「アキレス腱反射弛緩相の遅延」と呼び、甲状腺機能低下症を診断する上で重要なサインとされています。
甲状腺機能低下症の舌肥大がいびきの原因
では、どうして甲状腺ホルモンの減少を引き起こす甲状腺機能低下症が、いびきにつながるのでしょうか?
それは上記でも解説した、粘液水腫が関係しています。甲状腺機能低下症を発症すると、体のあちこちにむくみが生じ、舌や気道の粘膜もむくんで肥大が生じます。これが、寝ている間に気道を塞いで、いびきを引き起こしてしまうのです。
また、非常にまれですが、橋本病で甲状腺が大きく腫れることによって気道が圧迫され、いびきにつながるケースもあります。
参考:
甲状腺といびき
甲状腺機能低下と女性
2021.09.20、橋本病 昼間も眠い・だるい・いくら寝ても疲れが取れない
【番外編】甲状腺ホルモンが過剰に分泌される疾患
上記のように、甲状腺機能低下症による舌肥大がいびきを引き起こすことがあります。
次の解説にいく前にここでひとつ番外編として、甲状腺機能低下症と同じくらい有名な甲状腺機能亢進症、別名バセドウ病と呼ばれる疾患についても解説しておきましょう。
甲状腺機能亢進症(Basedow:バセドウ病)
甲状腺機能亢進症とは、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される疾患の総称で、最も頻度が高い疾患をバセドウ(Basedow)病と呼びます。(「三日月」や「にじいろ」で有名な歌手の絢香さんが発症したことでも、一時話題になりました。)
バセドウ病は、年齢にかかわらず発症の可能性がありますが、特に20代から40代にかけて多く見られ、女性が男性より3〜5倍多いと言われています。
なお、バセドウ病という病名は、報告したドイツ人医師の名前からつけられています。まれに、「バセドー病」「バセドウ氏病」などと表記されることもあります。また、別の報告者の名前から「グレーブス病」と呼ばれることもあり、英語圏では主にこの病名が使われています。
参考:
2021.09.30、バセドウ病とは(症状・原因・治療など)
バセドウ病の原因
バセドウ病は、本来自分の体を細菌やウイルスから守るために働く自己免疫が、自らの臓器や細胞を攻撃することで起こる自己免疫疾患のひとつです。
通常、甲状腺ホルモン(T3、T4)は、脳の下垂体(かすいたい)から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)が甲状腺を刺激することで分泌されます。
しかし、バセドウ病では甲状腺刺激ホルモン(TSH)をキャッチするTSH受容体に対する自己抗体を作り上げてしまうことで、TSH受容体を過剰に刺激し、甲状腺ホルモンの産生・分泌が促進されてしまうのです。
このTSH受容体に対する自己抗体(TSH受容体抗体:TRAb)が作られる原因は、今のところわかっていません。ですが、遺伝的にバセドウ病になりやすい体質を持っている人が、ウイルス感染や強いストレス、妊娠、出産などをきっかけに発症しているのではないかと考えられています。
バセドウ病の主な症状
バセドウ病の特徴的な症状は、甲状腺腫大(甲状腺が大きく腫れる)、頻脈(心臓がバクバクする)、眼球突出(びっくりまなこ)の3つです。しかし、バセドウ病にかかったからといって、必ずこの3つの症状が現れるわけではありません。
その他に見られる甲状腺機能亢進症状は、以下の通りです。
・疲れやすい
・汗をかきやすい
・暑がり
・体重が減る
・イライラや、集中力低下
・息切れ、動悸
・筋力の低下
・手指がふるえる
・過小月経(月経の回数が少なくなる)や無月経
・軟便や下痢
また、イライラすることが増えるため、不眠症状を訴えるケースもあります。
これらの症状は、他の疾患でも見られるため見分けがつかず、バセドウ病だと気づかれにくいこともあります。また、バセドウ病自体の知名度も低いため、そもそも病気だと認識されず、治療が遅れてしまうこともしばしばです。特に、高齢の女性は更年期障害だと勘違いするケースが多いです。
しかし、放置すると病状が悪化して「甲状腺クリーゼ」という中毒症状を起こし、最悪命を落としてしまうこともあります。そのため心当たりのある人は、速やかに医療機関を受診することが大切です。
参考:
2021.09.30、バセドウ病とは(症状・原因・治療など)
2021/10/12、早期発見・治療が重要さまざまな症状を引き起こす甲状腺疾患
甲状腺の病気について
甲状腺機能低下症によるいびきを放っておくとどうなるの?
それでは本題に戻って、甲状腺機能低下症によるいびきについてさらに深掘りをしていきましょう。
説明したように、甲状腺機能低下症の症状は、眠気、抑うつ、脱毛、寒がり、むくみなどが基本となります。ですが、これらの症状は一度見ただけではなかなか原因を特定しづらく、専門的な知識を持ち合わせていないと診断は困難を極めます。
しかも、こういった「原因がはっきりわからないけれど、なんとなく体調が悪い」という症状は、本人が病院に行くのを躊躇い、見過ごされてしまうケースが多いのが現状です。
おそらく、甲状腺機能低下症によっていびきをかいていたとしても、それを病気だと考える人は少ないでしょう。
しかし、治療せずに長期間放置してしまうと、睡眠時無呼吸症候群という恐ろしい病気を引き起こすことになるのです。
睡眠時無呼吸症候群の発症につながる
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に無呼吸状態(呼吸が止まる)が繰り返されることで睡眠が障害され、慢性的な睡眠不足に陥る疾患です。不眠状態に陥ることがなぜそれほど問題なのかというと、睡眠時無呼吸症候群は命に関わる危険な合併症を併発するからです。
睡眠時無呼吸症候群は、寝ている間に何度も無呼吸を起こすため、脳は足りなくなった酸素を補おうと中途覚醒を起こし、全身の血流を活発にします。すると、血圧が常に高い状態になるため、高血圧を引き起こします。
そして、高血圧をきっかけに、動脈硬化や肥満、糖尿病を発症し、最悪の場合脳卒中や心筋梗塞など突然死につながる危険な疾患を招いてしまうのです。
甲状腺機能低下症も睡眠時無呼吸症候群も、共に自覚症状に乏しく、治療が後回しにされがちです。本人ではなかなか気づくのが難しい面もあるので、もし家族や周囲に症状を訴える人がいたら、なるべく早い受診を促し、治療を始めてもらうことが大切です。
以下の記事で、睡眠時無呼吸症候群のセルフチェックができるので、気になる人はぜひやってみてください。
参考:
甲状腺といびき
2018/10/22、vol.18甲状腺の病気と睡眠時無呼吸症候群
治療法はあるの?
ここまで、甲状腺機能低下症の基本情報と、いびきとの関係性について解説してきました。そして、いびき・睡眠時無呼吸症候群発症の危険性もあるため、早期発見・早期治療が非常に大切です。
では、どのようにして治療を行うのでしょうか?それぞれの疾患について、ご紹介していきます。
甲状腺機能低下症の治療法
甲状腺機能低下症の治療は、足りていない甲状腺ホルモンを薬として服用することで、症状の改善を目指す薬物療法が基本です。
睡眠時無呼吸症候群を併発している場合、甲状腺機能低下症に対する治療を行うことで、睡眠時無呼吸が改善したという報告もあります。
ただ、狭心症などの虚血性心疾患を合併している場合には、治療開始時に狭心症の頻発や心筋梗塞を生じる可能性があるので注意が必要です。その際は、通常よりも少量の服用から始め、様子を見ながらの治療となります。
参考:
2021.08.15、甲状腺機能低下症
2021.08.20、橋本病の治療
2022/01/04、甲状腺機能低下症
甲状腺といびき
睡眠時無呼吸症候群の治療法
睡眠時無呼吸症候群の最も典型的な治療法は、CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法:Continuous Positive Airway Pressure)です。
CPAPとは、鼻に装着したマスクから装置を通して持続的に空気を送り込み、気道が閉塞しないようにする治療法です。睡眠時無呼吸症候群の治療法の中で最も安全だとされており、多くの医療機関で実施されています。
また、無呼吸が軽症の場合は、歯にマウスピースをはめて舌の落ち込みを防止する治療法もあります。
どんな治療法が自分にあっているかは個人差があるので、医師と十分話し合った上で最適なものを行うようにしましょう。
睡眠時無呼吸症候群の治療法については、下記記事でも解説しているので、ぜひ参考にしてください。
睡眠時無呼吸症候群の治療方法は?自分でできる対処法も紹介
参考:
CPAP療法
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まとめ
今回は、甲状腺の疾患といびきや睡眠時無呼吸症候群の関係性について解説しました。
いびきはさまざまな原因で発生しますが、甲状腺機能低下症によって引き起こされることもあります。また、それが悪化して、睡眠時無呼吸症候群を引き起こすこともしばしばです。
これまでいびきをかいていなかった人が急にいびきをかくようになった場合、そして上記で示した症状も合わせて見られる場合は、甲状腺の疾患を疑う必要があるでしょう。
そして、甲状腺疾患も睡眠時無呼吸症候群も、発症していることになかなか気づきにくい特徴があります。この記事を読んで、少しでも心当たりがある人は迷わず、医療機関を受診するようにしてくださいね。
【よくある質問】
Q.甲状腺の疾患によって、舌が大きくなっていびきをかくようになるって本当ですか?
A.甲状腺機能低下症を発症すると、舌や気道にむくみが現れるため、それが気道を塞いでいびきを発症する可能性があります。
Q.治療しないとどうなりますか?
A.いびきを治療しないと睡眠時無呼吸症候群に移行し、命を落としかねない危険な合併症を起こす可能性があります。また、甲状腺疾患もなかなか他疾患と見分けがつかないことも多いので、症状に気づいたら速やかに医療機関を受診するようにしましょう。